コラム
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2024.05.09~森を守り、未来へつなぐための3つのアクション~日本の林業の課題を解決するために何ができるのか?

岐阜県立森林文化アカデミーで講師を務める新津 裕先生の連載コラム。今回のテーマは「日本の林業の課題を解決するために何ができるのか?」。日本の豊かな森林を守り、次世代へつないでいく……そのための“3つのアクション”を教えていただきました。

新津 裕先生のご紹介コラムはこちら

 

新津裕 プロフィール
森林文化アカデミー講師
林業と言えば木材生産が主軸ですが、時代と共に森林と人との関わり方も変化していきます。そして現在の日本は森林の荒廃、森林管理の人材不足や獣害など様々な課題が山積みです。何かひとつの関わり方では解決できないそれらを、視野を広げて取り組むことで新たな解決の糸口になるのではないかと考えます。森林空間の利用と獣害対策を軸に、森林の関係人口を増やし、将来なりたい職業に「林業」がランクインできる世の中を目指します。

 

今回のコラムでは、持続的に森を守り、未来へつなぐための3つのアクションについてお話しさせていただきます。これは現場のプロフェッショナルな職人だけではなく、皆さんにもできる関わり方ですので、是非最後までお付き合いください。

森を守り、未来へつなぐためのアクション①『知る』

日本は国土面積の2/3が森林と、先進国の中では特に森林の豊かな国です。しかし、その豊かに見える森林も実は多くの問題を抱えているのです。まずはその問題について知って欲しいと思います。行動を起こすことも大切ですが、その行動の原理となる問題を認識していなければ時に現実問題とズレた行動を起こしてしまうこともあります。事実わたし自身も2000年代初頭に環境問題を学んでいたときには、木を伐ること・野生動物を捕獲することは悪だと疑いませんでした。しかし日本の林業の現場を見てきた今は……。

筆者の学生時代

日本林業の現実と意識のギャップ

木材を使うのは「環境に良い」、でも「国産材って高い」なんて思っている人も多いのではないでしょうか? 環境に良いというのは、プラスチックや他の工業製品に比べて、製造にエネルギー及び自然への負荷がかからない・炭素固定の役割があるからなどが考えられます。先のコラム『~国産木材を使うということ~日本人にとって身近な「木」という存在』で紹介している様に、国産材を利用することで市場価格が上がり、山へ還元することにもつながります。しかし、「国産材が高い」というのは現在林業に従事する人々にとっては一切実感がないことです。

グラフで見ればウッドショックにより一時的に価格が高騰しましたが、樹を伐るためには調査&測量・山林所有者の許可・行政的な手続き・作業計画の立案・重機や人的采配などを行う必要があり、公益的機能も担っている森林から木材を出すためには、事前に労力をかけて伐採の計画を立てなければなりません。そもそも成長が60年~100年を見越して植樹をするのが林業なので、壮大な時間軸の投資です。

森林には木材の蓄積がありますが、価格が上がったからと言って欲しいタイミングで山からすぐに木材が出てくるわけではないのです。それだけ手間をかけて原木(丸太)の価格が¥15,000/㎥(直径20cm×長さ4mで¥2,400/本※スギの参考価格)というのは、林業家にも山主にも嬉しい金額ではありません。

そんな価格の背景もあり、森林所有者は山で木を伐ること・手を入れることに積極的になりにくくなってしまいました。すると、本来間伐などの手入れをすることを念頭に植えられた針葉樹たちは、お互いに光・栄養を十分に得ることができずに貧弱な状態で育ちます。過密になった森林では地面まで光が届かなくなり、草などの下層植物が育ちにくくなります。そして、草などの根が本来持つ保水機能を持たない森林は、台風や集中豪雨などに耐えられずに土砂災害を引き起こすこともあります。

自然の持つ不規則な木目や個性を好みつつも、どこか価格や時間軸を他の工業製品と比較してしまっていませんか? 皆さんの手元に届く木材は、山に植えられてから手元に届くまでに長い時間を生き残り、かつその森林の中でも優秀なエースが届いていると思ってください。

森を守り、未来へつなぐためのアクション②森に触れる

日本は四季を「二十四節気七十二候」と細分化し自然と共に生き物を観察してきた文化があります。言い換えれば、かつての暮らしには自然の変化を観察することで生きるために必要な情報を得てきたとも言えます。しかし、ライフスタイルの変化で薪や焚付を拾うことも山菜や季節の恵みを得ることも少なくなってしまいました。いまや自然は“非日常”の空間となってきています。

森林に入る機会がなく育った人にとって森林は何か分からないが“危険”な場所になってしまいます。もちろん知らない山に入ることは少なからずリスクがあります。なので比較的入りやすい里山や登山道のある空間からでいいので足を運んでみてください。そこには、虫や他の生き物もいるかもしれません。

※虫が苦手な人は春先や冬の前あたりがオススメです。

しかし、生き物がいるということは、そこに生き物の営みや循環があるということです。花が咲けば蜜を吸いに来る生き物がいます。花が咲くということは、その後、実や種ができるのでしょう。その種はどうなっていくのでしょう。自然は変化に富み、足を踏み入れるたびに姿を変えます。

季節によっては山菜・キノコ・アケビやノイチゴなどの山の幸も森の中で収穫することができます。森の中は何もせずにボーっとするだけでも大丈夫です。

最初は落ち着かないかもしれませんが、座って目を閉じていれば徐々に周囲の音も変化してきます。風の音・木々の葉がすれる音・鳥の囀り・虫の鳴き声、鳥の声だけでも様々な種類が存在していることに気づきます。風に乗って匂いも変化することでしょう。体の中の五感が刺激されていることにも気づきます。森や樹と言葉で言ってしまえば簡単ですが、樹に直接触れみると1本1本それぞれが違うことが分かります。同じ樹種であっても、同じ人工林(人の手で植えられた森)であっても1本として全く同じ育ち方をしている樹はありません。そう、自然の中で成長する樹は工業製品とは似て非なる素材なのです。

森を守り、未来へつなぐためのアクション③林業の“いま”を正しくとらえる

林業というと、斧を持った屈強な男性の仕事というイメージや3Kという言葉とセットで認識されていました。しかし、ふんどし姿で斧を振り回す林業は遠い昔の話です。そして、ここ十数年でチェーンソーの性能向上や労働環境の改善・教育体制がより充実してきたこともあり事故の数が減ってきました。平成11年には3,191人の死傷災害を起こしていた林業ですが、令和4年には1,176人まで減少しています(参照:林野庁HP)。

他産業に比べれば災害の率が高いことに変わりはありませんが、大きく改善がされていることを示しています。給料も日払いの会社もあれば、月給制や週休2日制も増えてきています。

女性の活躍も目覚ましいものです。実はデータの残っている昭和時代にも女性は多く活躍していました。特に戦後の拡大造林には多数の女性が植林や下草刈りなどで活躍していました。そのおかげで今の日本の森林があるのです。近年でも造林作業だけでなく女性が様々な現場で活躍しています。かつての林業作業だけでなく高性能林業機械やドローンを利用した作業も増えてきました。森林内を測量する際に使う機材もデジタル化や高性能化が進んでいます。むしろ繊細さが求められる重機(高性能林業機械)操作や所有者とのコミュニケーションでは「女性にかなわない!」という林業家もいる程です。

山奥で作業を行う機会の多い「林業」は、人の目に触れることが少なかったのですが、近年では小説を元にした実写映画化が行われたり、タレントが林業に触れたりとメディアへの露出が増えてきました。ここ数年ではオンラインでの遠隔仕事が可能になったこともあり、都市部の人が中山間地域への移住と同時に林業と出会うことも多い様に感じます。昔ながらのシブイ木こりと若手の多様な木こりが交じり合う、非常に期待に満ちたユニークな時代が今来ていると感じています。

 

今回のコラムでは、豊かな森を守り、未来へつなぐために、いま私たちができる3つのアクションについて紹介させていただきました。林業には様々な問題があり、それらが複雑に絡み合って簡単には解決できないことも多くあります。同時に、日本各地の人工林で今まさに手入れを必要とする時期を迎えています。これらの問題を解決するためのはじめの一歩は、多くの人に日本の山や森のこと、そこで起こっていること、林業の仕事などについて、まずは知ってもらうことだと考えています。

国産材を使うということは、次世代の森林を守るための投資だと認識していただき、もし複数の選択肢があるのであれば、ぜひ国産の木製品を手に取っていただければと思います。これからも自然豊かな日本の森林が維持されることを願って結びとさせていただきます。

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