コラム
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2023.11.17~国産木材を使うということ~日本人にとって身近な「木」という存在

岐阜県立森林文化アカデミーで講師を務める新津 裕先生の連載コラム第一弾。今回は、日本人と木との関わり方、国産木材を利活用することの意義などを教えていただきました。

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新津裕 プロフィール
森林文化アカデミー講師
林業と言えば木材生産が主軸ですが、時代と共に森林と人との関わり方も変化していきます。そして現在の日本は森林の荒廃、森林管理の人材不足や獣害など様々な課題が山積みです。何かひとつの関わり方では解決できないそれらを、視野を広げて取り組むことで新たな解決の糸口になるのではないかと考えます。森林空間の利用と獣害対策を軸に、森林の関係人口を増やし、将来なりたい職業に「林業」がランクインできる世の中を目指します。

 

世の中はさまざまな素材で溢れています。家の材料などにはその地域特有の素材が扱われ、その素材から地域の文化や歴史を紐解くこともできます。

 

樹が豊富にあった時代の建物@ドイツ

では、日本はどうでしょうか? 社寺仏閣や古民家など適材適所を考えられた“木造建築”が発達しています(日本は島国で南北に広いため、地域差もあります)。家だけでなく、暮らしの中のモノでも“木製”の道具や素材を目にしない日はないでしょう。今この記事を読んでくれている皆さんも、顔を上げ周りを見渡してみてください。

 

きっと何かしら「木」由来のモノが目に入るのではないでしょうか?

それは家具かもしれませんし、壁や床かもしれません。あるいは食器や文房具でしょうか。屋内であれば扉や窓の枠、壁と床の境の見切り材でもよく使われています

木は無垢材としてだけでなく、合板やファイバーボード、OSBボードや集成材など、さまざまな形に加工され、下地材としても利用されています。逆に木材の柄を印刷する技術も向上しており、一見すると木に見えるけれど、実は木目の凹凸も表現した作り物のシートも知らず知らずの内に暮らしの中に溶け込んでいます。

 

木柄プリントのフロアマット

それほど木には「加工容易性」や「熱伝導性の低さ」、「木目の不均一さ」など惹かれる魅力がたくさんあるのです。

「樹」と「木」について

辞書によると「木」はモノを作る材料としての意味や、葉や花をかぶった立ち木のことを示し、「樹」は立って生えている状態のことを示していました。そのため、このコラムの中では「樹=立っている状態」「木=加工された状態」として扱わせていただきます。

つまり、街路樹や山林に生えているモノは「樹」、暮らしの中で使われている素材や扱われているモノは「木」、もしくは「木製品」と表現しました。

 

さて、我々の身近にある木製品ですが、これら「木」のことをどれだけご存知でしょうか? 「木を使うことは環境に良い」というフレーズを目にすることがありますが、本当に環境に良いのでしょうか?

 

木とはどういった素材なのか? 使うことで何が起きているのか? まずは「木」の元となる「樹」の成長についてを紹介したいと思います。

樹が育つために行っていること

樹は地面からミネラルと共に水分を吸い上げ、太陽光から光エネルギーを吸収し、その際に二酸化炭素を吸収してエネルギーに置き換えて成長します。つまり、樹が成長するためには「ミネラル」「水」「光」「二酸化炭素」が必要ということです。

そして、環境に良いと言われる要因のひとつが、温室効果ガスである二酸化炭素を大気中から吸収し固定してくれること。ただし、せっかく吸収してくれた樹を燃やしてしまうと、大気中に二酸化炭素を再放出することになってしまいます。

木は自然素材で唯一無二の個性

森林で生育する樹は、庭に生えている樹などと異なり、基本的には施肥や薬品などを使用しないで育ちます(動物から守る忌避剤を撒くことはある)。自然の力で生育する素材であるため、同じ時期に同じ手法で植林したとしても、地形、地質、風の影響、光の当たり加減など外部の影響を大きく受けて育ちます。親となる母樹からDNAの特徴は引き継ぐものの、ひとつとして同じ様に育つものはないと言えるでしょう。

 

製品としてカツラ剥きに加工する合板や木をスライスして作る突板などを除けば、同じ木目を揃えようとするのは非常に困難です。だからこそ、家の床や壁・家具などとして利用した際にその個性が際立つのです。

 

 

国産木材を利活用することで森林へ還元する

一般的に森林(人工林)で生産されるスギやヒノキといった国産木材の主な用途は「建築用材」ですが、少子化に伴う人口減少や住宅着工数の減少、空き家問題など、住宅事情は決して明るい話題だけではありません。

国産木材の需要が減少すると、林業として生計を立てることが困難になり、結果として森林が荒廃してしまいます。すると、必要な木材を入手することが難しくなってしまうという負のサイクルに陥ることに。国産木材を適切な価格で購入することは、次の木材を生産するためにも必要であり、木材を使うということは、持続的に森林を維持していくことにも繋がっていくのです。

木材はリユース可能な素材

古民家のリユース材

私自身、最近古民家に引っ越しましたが、一番驚いたのは利用可能な木材を再利用していることでした。築100年と言われる古民家の床をめくってみると、不思議な穴の開いた木材が使われていたのです。大工さんによると、それは恐らく別の場所で使われていた材を再利用したとのこと。モノによっては築年数を超える年月を過ごしてきたのかもしれません。

補修のために別の家を解体した際に出てきた部材なのかもしれませんが、何にせよ不朽・劣化さえしていなければ、部位によっては何十年も再利用できるという特徴を持ち合わせています。多少の傷などであれば、木の特性を活かして修復できることも木材ならではですね。

木はどこからやってくる?

それらの木がどこからやってきているのかも是非知っておいていただきたい。木そのものにラベルが張られることはほとんどないため、購入時にその情報を仕入れることが必須です。森林に覆われている日本に住む我々にとって、樹は非常に身近な存在ですが、暮らしの中に使われている木製品が目の前の樹々から作られているかというと、そうでもないのが現状です。

林野庁の「木材需給表」によると、木材の用材としての自給率は2000年代初頭に比べておよそ倍増していますが、それでも約35.9%(令和3年数値)。60%以上がいまだに輸入に頼っていると言えます。

 

チップ用材

つまり、前述の“木を買うことで山へと費用が還元される”という点については、輸入品の木製品を購入しても日本の山へは還元されないということになるのです。

樹を伐ることは悪いことなのか?

2000年代初頭に環境問題がとくに取り上げられた時代があります。その際、樹を伐ることにあまり良くない印象を持った方も多いのではないでしょうか。熱帯雨林の減少と共に温室効果ガスの増加やオゾン層の破壊など、森林が破壊されることによってさまざまな問題が発生したことが要因です。

 

しかしながら、日本の人工林では様子が異なり「伐ることが前提の植え方」がされています。1ha(100m×100m)あたり3,000本の樹を植えた場合、途中で間伐を繰り返し行いながら樹の成長をコントロールしていき、最終的に目標となる年数を経過するころには1haあたり数百本に調整します。

調整には樹を真っ直ぐ上に伸ばすことと、年輪の幅をコントロールする役割があり、樹を伐らないと目的に見合った木材の生産ができません。日本の人工林の場合は間伐で間引くことを前提として植えているため、定期的に間伐することで森林を維持していくのです。

 

森のこと、木のこと。
身近にあり過ぎて見過ごしていることもあると思います。

少しずつで良いので、背景にある森を意識しながら木を選択し、木に触れる時間を増やしてみてはいかがでしょうか。

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