7月20日、働き方をテーマにしたオンラインセミナーが開催されました。講師として総務省テレワークマネージャー、デジタル庁デジタル推進委員の家田佳代子さんと、オフィス環境の木質化や空間プロデュースを手がけるグリーンデジタル&イノベーション株式会社の取締役、石川玄哉さんが登場。働き方が変化する中で、オンラインと出社の活かし方や出社の価値を高めるオフィスづくりのヒントが得られる時間となりました。当日の模様をレポートします。
第1部 「新しい働き方に見る不可逆性」
第1部はテレワーク導入をサポートしてきた視点で家田さんから新たな働き方の現状や課題が共有されました。
テレワークマネージャーが生まれた背景
そもそもテレワークマネージャーが生まれたのは、政府が家庭・職場・地域で誰もが活躍できる社会を目指す「一億総活躍社会」の実現を掲げたことに端を発しています。日本のGDPを増やすためには、就労人口の増加につながる取り組みが必要です。例えば障害者や女性の育児による離脱をなくす、高齢者の雇用の促進などが挙げられます。こうした取り組みのひとつとして、テレワーク推進のため企業や団体のテレワーク導入を支援する専門家として登場したのがテレワークマネージャーです。
「日本のテレワークは世界に遅れをとっていると言われてきました。政府は世界有数のIT立国を示すため『世界最先端IT国家創造宣言』を出し、国を挙げて取り組む中にテレワーク推進も含まれています」と家田さんは説明します。
日本のテレワークの現状とメリット・デメリット
各都道府県では、「ふるさとテレワーク」と称して自治体が国の助成金を活用や独自に予算の確保をするなどしてテレワーク推進を後押ししているそうですが、その実施率は全国平均で27%程度と当初政府が想定していた目標の70%に届いておらず、従業員の実施率も想定より低い数値だそうです。
その原因として、「仕事を進めるには出社が必要、紙ベースの業務、機密情報の取り扱いのため出社しているなどが挙げられる」と説明します。
家田さんはテレワークのメリットについて「実家に戻り介護と仕事を両立できること、孤独感や疎外感の解消、セキュリティの確保、優秀な人材の現地採用につながっていく」と話します。また、そのデメリットとして、「仕事のオンオフの切り替えがしにくい、自宅が適した環境になっていないことがある」と家田さんは言います。
テレワーク推進に成功した業種と今後の課題
テレワークを試行錯誤する企業が多数ある一方で、コロナ禍以前から推進してきた企業は生産性が向上したという結果も出ています。最もテレワークが進んだのは情報通信業界。他にも金融・保険業界はタブレット化が進み、8割以上のテレワーク導入を実現しています。コロナ禍を機に、オフィスの縮小や地方移転が進んだこともテレワークを後押ししているようです。
しかし、導入効果の得られた企業があるものの、「企業側ではコミュニケーションツールの運用コスト、労務管理、安全配慮義務、経営層の理解、メンタルケア、新入社員の教育など課題解決が必要」とテレワークの定着には課題が山積していると家田さんは言います。
例として従業員側での課題に、勤務スケジュールが挙げられました。育児や介護が必要な人はテレワークの活用で、それぞれの時間を確保しながら8時間の勤務が可能になりました。しかし、出社がメインになると臨機応変な時間の調整ができなくなり、結果として働けなくなるリスクが出てくる、と家田さんは懸念を示します。
さまざまな働き方に対応するためにも、単にコロナ禍以前と同じ働き方に戻そうとするのではなく、テレワークと出社のハイブリッド勤務ができるよう「交通費や通信費などの課題解決をする制度改革と居心地のよい職場環境の構築が必要」と提言しました。
最後に、テレワークをうまく取り入れるためには、現場の合意形成を図ることが一番の近道だと締めくくりました。
第2部 「導入してよかった!オフィスの木質化」
続いて、第2部に登場したのは、木製オーダーメイド家具や木質空間プロデュース、プロダクト製作などを手がけるグリーンデジタル&イノベーション株式会社の取締役、石川玄哉さんです。ここでは、木質オフィスの導入事例からわかる木質化のメリットが伝えられました。
企業・従業員も喜びをもたらし、環境保全に配慮されたオフィス
石川さんは木質化のプロフェッショナル。木が柱などの構造に使用されることを「木造」、内装に使用されるのを「木質」と使い分けていると説明をしながら本題へ。
まずは、オフィスリニューアルで木質オフィスのブランド「キイノクス オフィス」を導入された企業様の事例紹介。執務室のリニューアルでフリーアドレス用のテーブル、そして既存のデスクに置くだけで木質を実現するキャビネットフレームを導入した会社様です。お客様のポジティブな反応から、木の匂いや手触りなどの心地よさを実感できる空間には「アイスブレイクの効果や取引先からの評価、面接会場などの採用活動に有効な場所になる」と多数のメリットがあることに改めて気づかされたと話します。
会議室を木質化した後の変化
会議室を木質化した後の変化について、利用時間が以前の会議室と比較して、211%の利用率となったと結果が出ており、使いたくなる空間になっていることがわかりました。石川さんによると、木質化された会議室の利用者の約90%が再び利用したいとポジティブな回答をしているそうです。また、従業員にどのような変化をもたらしたのか声紋分析をしたところ、自己中心的意識が低下し、チームワーク意識が高まったという結果も出ています。
とあるオフィスの木質化をした会社では採用でも一定の効果がありました。オフィス木質化と合わせてオフィスツアーを実施したところ、木質オフィス導入後の応募者数が以前の3倍超になったそうです。
木質オフィスを導入することで「オフィスの利用率向上」「チームワーク意識向上」「採用強化」「SDGsへの貢献」など、「従業員も会社も社会も喜ぶ素敵なオフィスづくりのために効果があります」と締めくくられました。
トークセッション 今こそ立ち止まって考えるべき「働く環境」
最後は講師の家田さん、石川さんによる「オフィス不要論」「モチベーションのアガる働く環境」をテーマにしたトークセッションが行われました。
オフィス不要論
石川:コロナ禍で緊急事態宣言が発令されて、2020年頃はオフィスを無くす企業様も出てきましたが、結局のところオフィスをゼロにする企業は少なかった印象です。そこにはどんな要因があると思いますか?
家田:最低限として会議室などのコミュニケーションの場が必要だと考えた企業が多かったということだと思います。
石川:オンラインでの仕事において等しく環境整備をする難しさも理由として挙げられますよね。雑談や相談はオンラインだけでは完結できないところもある中で、コロナ禍でオフィスのあり方が見直されたように思います。
家田:日頃から企業様には、「対面でコミュニケーションがとれない上司と部下は対面でなくなるとよりコミュニケーションがとりづらくなってしまうので、テレワークには訓練が必要です」とお話しをしています。そういったことも(オフィスをゼロにできない)要因になっていると思います。
石川:オンラインミーティングの場合、目的があって話しているので、オフィスで雑談するようなライトなコミュニケーションがしづらいのも要因かもしれません。オンラインで会話できても、精神的な距離は遠く感じてしまう部分はあるのではないでしょうか。そうした中で、オフィスに求められる要素も変化していると思います。コロナ禍前後でオフィスに変化はありますか?
家田:椅子を間引きしてオフィスにゆったりした空間が生まれましたね。観葉植物などを設置して目にも優しい環境が増えた印象です。
石川:感性を刺激するものを本質的に求めるようになってきたのでしょうね。ワークスタイルが変わっても、人はコミュニケーションをとりたいでしょうし、そういったことを感じた上で仕事をするし、会社は働いてもらえる環境を整える必要がありますね。
モチベーションのアガる働く環境とは
石川:家田さんの講演資料には、テレワークによる効果として、約70%の人のモチベーションが向上したという結果がありました。これにはどんな要因がありそうでしょうか?
家田:独身の人であれば通勤時間がなくなって自分の時間ができ、習い事を始めたり、スポーツジムに通い出したりと本当にやりたかったことをするようになりました。また、家族との時間が増え、忙しいお父さんが自宅で仕事をしていて家族の仕事への理解が得られたということがモチベーションにつながっているようです。
石川:ワークライフバランスが良くなったということですが、仕事の内容についてはいかがですか?
家田:仕事の内容にはまだ戸惑う人も多い印象です。会社でやるもの、自宅でやるものと線引きをしている人が多く、どちらでもできるという認識になるまではまだ時間がかかるだろうと思っていました。そうこうしているうちに、コロナ禍以前のような出社する働き方に戻ったという感じですね。
石川:選択できることを会社が言えるようになったけれども、会社としては従業員さんの働き方に合わせざるを得なくなったと言えますよね。ちなみに、家田さんはご自身で自宅を木質化されたと伺いました。
家田:和室の賃貸で畳を変えられなかったので、無垢の板をDIYで敷いたんです。机も無垢の木だと心が穏やかになるんですよね。
石川:木質にすることで作業効率が上がったというお話しもされていましたね。
家田:集中できるようになりました。木の素材そのものだけがシンプルに設置されているだけだと、頭の考えもスッキリするので資料作成の効率は上がりました。
五感を刺激しますね。木の匂いや手触りとかによってリラックスできて、さらに頭は集中できている状態なのでいいと思います。
石川:これまでモチベーションが高まると感じた印象的なオフィスはありますか?
家田:本物のグリーン(植物)が多いところです。各テーブルに置いてあるだけでもいいですね。
石川:白いデスクの空間よりもカフェでの会話のほうが盛り上がったり、仕事したくなったりするのと同じように、モチベーションがアガるソフト面の環境整備が必要ですね。働きやすい環境を作った上で、出社とオンラインとのハイブリッドが求められますが、運用のコツはあるでしょうか?
家田:まずは意識改革だと思います。テレワーク導入の際には、人の意識の問題がテレワーク導入の足枷になったので、ハイブリッドにするにあっても、意識の問題を解決していかなければうまくいかないのではないでしょうか。
石川:地道にコミュニケーションをとって会社側から発信していくことが大事ということですね。ありがとうございました。