地元の森林保全や地域経済の活性化、SDGsへの貢献などができることから、“木材の地産地消”の需要が高まっています。キイノクスが提供する木製オフィス家具でも産地を指定することが可能で、最近では宮城県の県産材「登米材(とめざい)」を使用したデスクなどを導入される地元企業が増加しました。では、登米材にはどのような特長や魅力があるのでしょうか? 登米市の森林事業や登米材の乾燥・加工などをおこなう登米町(とよままち)森林組合の竹中雅治さんに伺います。
宮城県登米市の豊かな風土が育んだ「登米材」
登米市は宮城県の北東部に位置し、気候が非常に穏やかで、東西を分けるように雄大な北上川が流れており、その川を中心に内陸側では農業が、太平洋側では林業が盛んにおこなわれています。三陸自動車道が延伸されるまでは仙台のように都市化することもなかったため、昔ながらの農産地や山林の良い部分が残り、魅力あふれる山村地域になりました。2021年にはNHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」の舞台にもなったため、登米という地名を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
北上川が育んできた肥沃な大地、そして、穏やかな気候に恵まれているため、登米の山林で育った木々は生育が良いと言われています。中でもスギは寒冷地のように年輪が引き締まっていて、豊かな土壌と寒い地域の良いとこ取りをしたような木材になりました。
また、登米市は極端に寒くも暑くもない地域なので、木材として活用できる樹種が豊富に自生していることも特徴です。スギやアカマツといった針葉樹のほか、クリ・ヤマザクラ・ケヤキ・コナラ・クヌギなどの広葉樹も育っており、これらを「登米材」として提供しています。
しかし、登米の山林で育った木々はそれだけで登米材になるわけではありません。登米材を語るうえで欠かせない「太陽熱乾燥システム」と「FSC森林認証」についてもお話させていただきます。
太陽熱乾燥システム「ToSMS(トスムス)」を活用したエコな木材
山から伐り出したばかりの木材というのは多くの水分を含んでいるため、しっかりと水分を抜いてあげないと建材や家具として使用した際、収縮してしまったり歪んでしまったりなどのトラブルが起こります。そのため、木材には乾燥の工程が欠かせません。
多くの製材所などでは、化石燃料を使用するボイラー乾燥機で木材を乾燥させているのですが、登米町森林組合ではその方法にプラスして、太陽熱乾燥システム「ToSMS トスムス(Toyoma-machi Shinrin-kumiai Wooden Materials Super Solar Storage)」を併用しています。
木材は環境に優しくて、エコな素材というイメージが強いですが、材として使用するためには乾燥させなければならず、そのためには灯油などを使わなければなりません。しかし、太陽熱を有効活用して乾燥させることで、エコで環境に優しい木材になるわけです。
ToSMSの仕組みはとてもシンプルです。ビニールハウスの側面と上部に太陽熱を集めるパネルを設置し、このパネルで空気を温めてビニールハウス庫内に取り込むことで、外気と比べて温度が高くて相対湿度が低い環境をつくることができるため、木材の乾燥が促進されるのです。太陽熱を活用した同様の仕組みの乾燥システムは全国に数ヶ所あるのですが、商業的に動いてるのはおそらく登米町森林組合だけだと思われます。
ToSMSはエコなだけでなく、穏やかに乾燥させることができるのも特長です。この乾燥システムを使用した登米材は割れにくく、色つやも非常に良くなるため、大工さんや木工職人さんにも好評をいただきました。
また、ToSMSには、乾燥のコストを抑えられるという利点もあります。太陽熱は天気や季節に影響されるため、一概には言えませんが、化石燃料の使用量とボイラー乾燥庫の使用時間をだいたい半分ぐらいに抑えることができました。つまり、乾燥時間を半分に抑えることで木材の出荷量を2倍にすることができ、さらに乾燥コストも半分に抑えることができるのです。ToSMSの稼働によって、森林所有者さんへの利益還元のみならず、みなさまにも登米材をご利用いただきやすくなる。まさに一石二鳥ですね。
FSC認証木材を利用することはSDGsへの取り組みに繋がる
宮城県登米市はFSC森林認証を取得し、世界基準で森林を管理しているため、登米材はFSC認証木材として扱われています。森林の管理や加工・流通過程が適切におこなわれていることを認証された商品にはFSCマークが付けられるのですが、日常でよく目にする商品にも付いていることはご存知でしょうか? 身近なもので言うと、ティッシュペーパーやトイレットペーパー、紙のパッケージにも付いています。最近では年賀状でもFSCマークを見ることができますね。FSCマークが付いた商品が購入されると森林の管理に携わっている方々にも正当に利益が還元されるので、結果的に豊かな森林を未来に残すことにも繋がります。
そのため、FSC認証木材はSDGsとの相性が非常に良いと言えるでしょう。SDGsの17の目標のうち14の目標に直接寄与しているので、企業がFSC認証木材を積極的に取り入れることは、持続可能な目標達成に貢献していることにもなります。たとえばFSC認証木材を使ったオフィスづくりは、環境問題に対する意識の高い方々への訴求ポイントになり得るのではないでしょうか。最近ではCSR (社会貢献活動)の一環でSDGsへの取り組みを強化する企業が増えてきました。同じようにFSC認証木材を取り入れる企業も増えてほしいと考えております。
オフィス家具から木材建築まで幅広い用途~登米材の活用事例~
登米材の用途として人気なのは「羽目板」です。羽目板は壁面に貼るほか、床材としても使用されていて、住宅をリフォームする際に取り入れる方が増えています。個人的な感覚になりますが、木の温かみを一番感じやすいのは足元だと思うんですよね。柔らかくて温かみがある肌触りとやさしい香りなど、五感で感じる心地良さが受け入れられてきたという実感もあります。
一方で、オフィスや商業施設でも登米材を使った家具の需要が高まっています。壁面の一部に羽目板を貼るケースもあるのですが、気軽に導入できて木のぬくもりが感じられる家具を導入したいというご依頼が増えてきました。その事例としては、イオンモール新利府のフードコートのテーブルを地元の木でつくりたいというご要望もありましたし、お蕎麦屋さんのお盆や器を登米材で制作したこともあります。
また、登米材は建材として使用されることも多く、仙台市内にある靴を脱いであがるカフェでは、登米材のフローリングを施工しました。さらには企業の建物や公共施設を木造でつくりたいというお話もいただけるようになっています。最近ではJR仙台駅のイーストゲートビルのエントランス天井やJAみやぎ登米本店を新築する際にも登米材の提供をしました。
登米町森林組合が目指す日本の森林を守る取り組みとは?
登米町森林組合では“百年の森”という言葉を掲げ、活動を続けています。私たちの周りにある木材というのは、先人の方々が50年前に植えた木で、想いを込めて育ててくれたからこそ今を生きる私たちは木材を使うことができているわけです。そして、次の世代にも森林を託せるように育てていかなければなりません。使うだけじゃなくて、育てていく。林業は百年という長い年月をかけておこなうものなので、前後50年を少しずつスライドさせていく意識が必要です。
内閣府が定期的に実施している「林業と生活に関する世論調査」の結果では、森林に期待することとして、大多数の方々が災害の防止や温暖化防止、水資源の確保といった“森林そのものがもつ機能”に関心をもたれています。環境問題への意識の高まりからそのようなことに期待されるのでしょう。その一方で、木材生産やきのこ山菜の生産といった“林業への期待”が低いことが表れています。ここに“期待のギャップ”があるわけです。しかし、林業が経済行為として成立しなければ森林は温暖化防止などの環境効果を発揮させることはできません。
そのため、私たちのような森林に関わる者が、もっと積極的に木や山の魅力を伝えていくことが大事になると考えています。たとえば一般の方々にとって、木や森って身近にあるようで、意外と生活から遠いところにあるんですよ。そういった方々にも森の魅力を感じてもらいたいということで、登米町森林組合では森林整備や木材加工以外にもキャンプ場の運営をしたり、気軽に森林セラピーを体験できる森を整えたりしています。少しでも森を身近に感じてもらい、生活の中で木と触れ合う機会をつくる。地道な活動ですが、木の魅力がもっと多くの方々に伝われば未来を生きる人たちにも自然を残すことができるはずです。