2020年の世界的なパンデミック以降、リモートワークやフリーアドレスの導入が進み、毎日オフィスに出社しなくなったという方が増えました。その一方で、出社して顔を合わせたほうがスムーズに業務が進むこともある、といった体験談も多く聞かれます。では、出社したくなるオフィスとは、どのようなものなのでしょうか? 働く人たちがオフィス環境に何を求めているのか、緑化や木質化といった“自然”がオフィス環境にもたらす効果について、ヤハギ緑化株式会社の赤藤惠司さんにお聞きします。
ヤハギ緑化株式会社 企画部長代理 兼 教育・研究開発グループマネージャー 赤藤惠司 |
働きやすいオフィスの条件は? オフィス環境に求める5つの要素
働く人たちは、オフィス環境に何を求めているのでしょうか。 ロバートソン・クーパー社の世界16か国、7600人を対象に行った調査*によると、5つの要素を求めていることがわかりました。 1位 自然光(44%)、2位 観葉植物(20%)、3位 静かな環境(19%)、4位 海の見える眺望(17%)、5位 明るい色(15%) *『ヒューマン・スペース:世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果』 オフィス環境に自然光や観葉植物が求められている一方で、このふたつの要素が無いという回答が、全体の約半数を占めています。この調査で、働く人がオフィス環境に求めているものと実際のオフィス環境とでは、ギャップがあることが浮き彫りになりました。 自然光や海が見える環境については、立地や建築に関わる部分なので、手軽に改善することは難しいと言えるでしょう。しかし、観葉植物の設置、一人用のワークブースなどを設置して集中できる環境をつくる、オフィス家具を木質化して空間を明るくするなど、それぞれのオフィスの規模や予算に合わせた改善の余地がありそうです。
自然との繋がりがオフィス環境にもたらす3つの効果
人間には、先天的に自然を好む性質があると言われています。アメリカの社会学者エドワード.O.ウィルソンは、「バイオ(生き物・自然)」と「フィリア(愛好・趣味)」を組み合わせ「バイオフィリア」という言葉をつくり、「人間は本能的に自然とのつながりを求める」「自然を感じる環境で健康や幸せを得られる」と提唱しました。 建築や空間デザイン業界は、このバイオフィリアの考えに基づき、植物や水などの自然の要素を身近に感じられるバイオフィリックデザインを提案しています。オフィス空間や執務室などの働く環境に、植物や木といった自然の要素を取り入れることによる3つの効果をひとつずつ見ていきましょう。
自然との繋がりがもたらす3つの効果① 幸福感が15%Up
オフィス空間に植物を設置すると、ストレスが軽減されると言われています。バイオフィリックデザインの環境下では、幸福感が15%上昇したという報告*も見受けられました。ヤハギ緑化が手がけたオフィス空間に関するアンケートでも、快適で過ごしやすくなったという感想をいただいています。 植物を設置することで、空間がオシャレになって心地良い、リラックスできて癒されるなど、植物がもたらす感覚的な幸福感を得られるほか、会社が自分たちのためにお金をかけて快適な空間をつくってくれたことに対する喜びも生まれます。会社の健康経営の取り組みとして行うオフィスの緑化や木質化は、健康経営に寄与するだけでなく、社員の愛社精神の醸成にも繋がっていくと言えるでしょう。
自然との繋がりがもたらす3つの効果② 生産性が6%Up
働く人々の生産性について、自然を取り入れたオフィスでは、取り入れていないオフィスと比較して、3か月で生産性の6%上昇が認められた*と報告されています。 緑化や木質化など自然を取り入れることで、ストレスが軽減され、社員同士のコミュニケーションが生まれやすく、その結果として生産性の向上につながるのではないでしょうか。 また、弊社グループの調査では離職率が下がったという結果もありました。 離職率が高いと頻繁に新しいメンバーを迎えなくてはならず、採用コストに加え、業務を教えるための時間と費用がかかってしまいます。また、離職者が減ることで、チームは新しいメンバーの教育にかかる時間と労力を、本来の生産性を上げるための活動に注げるようになり、高いパフォーマンスを生み出すことにも繋がります。
自然との繋がりがもたらす3つの効果③ 創造性が15%Up
日光や植物といった自然の要素を取り込んだ環境で働いている人々の創造性は、自然の要素がない環境で働いている人々よりも15%高い*と報告されています。 自然光を入れることは難しくても、オフィスレイアウトを変更したり、植物を取り入れたりして、自然と協働する環境をつくることはできるでしょう。今できる小さいことからでも、ぜひ始めてもらえたらと思います。
サロンスペースへ地域の川を再現したビオトープ水槽を設置
ヤハギ緑化が手掛けるオフィス緑化には、植栽はもちろん、水槽を使って地域の川を再現したビオトープが設置されているフロアもあります。そこで休憩をしたりアイディアを練ったり、打ち合わせをしたりなど、様々なシーンで活用されています。自然と人の結びつきをオフィス空間の中に可視化しているので、例えば海洋問題や林業の課題を考える時など、それらをより感覚的に捉えやすくなる効果も生まれました。 オフィス空間は、業務内容によって趣向を変える必要があると考えています。しかし、どのような業務であっても植物などの自然要素はぜひ取り入れていただきたいものです。自然要素に触れることによるリラックス効果で思考に余白が生まれ、その余白が創造性の豊かさに繋がっていくのではないでしょうか。 *出展:ロバートソン・クーパー社「ヒューマン・スペース」
自然と協働するという潮流
自然空間を体験できる大型壁面緑化。人が集まる場所に導入すると、効果的です。
健康経営が注目される昨今、健全に働き生産性をあげるため、働く空間に自然の要素を取り入れることが注目されています。それにともない、「自然と協働するオフィス空間をどのようにつくりあげていくのか?」という空間設計のカテゴリーができつつあるようにも感じられます。 パソコンからふと目を上げた時に緑が目に入る、働くデスクやチェアに木のぬくもりが感じられる。デスクの上には小さな緑や花がある。そういったひとつひとつの取り組みが、働く人々を癒し、パフォーマンスを向上させ、企業の利益に繋がっていくのではないでしょうか。 空間を大きくリニューアルするような大規模な取り組みも増えたら良いと思いますが、その分予算もかかってしまいます。まずはデスクに小さな鉢植えを置くといった個人で取り組める小さなアクションや、会社として空間の木質化や緑化をスモールスタートで取り組んでみるなど、少しずつ始めてみるのがオススメです。 小さく自然と協働する取り組みを始めることで、これまで以上に出社やオフィスで働くことが楽しくなるのではないかと思います。 ヤハギ緑化株式会社