コラム
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2024.01.09~暮らしの中の森林資源~形を変えて暮らしの中に溶け込んでいる森の恵み

岐阜県立森林文化アカデミーで講師を務める新津 裕先生の連載コラム。今回のテーマは「暮らしの中の森林資源」。森の恵みはさまざまな形に姿を変え、私たちの生活に溶け込んでいます。たとえば「木」は「紙」になりますが、洋紙と和紙の違いはご存知でしょうか? 知っているようであまり知らない日本の森林資源のことを教えていただきました。

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新津裕 プロフィール
森林文化アカデミー講師
林業と言えば木材生産が主軸ですが、時代と共に森林と人との関わり方も変化していきます。そして現在の日本は森林の荒廃、森林管理の人材不足や獣害など様々な課題が山積みです。何かひとつの関わり方では解決できないそれらを、視野を広げて取り組むことで新たな解決の糸口になるのではないかと考えます。森林空間の利用と獣害対策を軸に、森林の関係人口を増やし、将来なりたい職業に「林業」がランクインできる世の中を目指します。

 

森林資源は建築用材としてだけではなく、さまざまな部分で日本人の暮らしを支えてきました。形を変えて暮らしの中に溶け込んでいる森の恵みの数々をご紹介します。

繊維から作られる必需品【紙】

形を変えて我々の暮らしに溶け込んでいるモノといえば、【紙】は代表的な存在かもしれませんね。ちなみに「洋紙」と「和紙」の違いはご存じですか? 簡単に説明すると、「洋紙」は樹の木部を粉砕して作られるパルプ、「和紙」はコウゾ・ミツマタなど特定の種類の“樹皮”を主に使用しています。工業的に作られる和紙ではその他の原料を使用することもありますが、原料の部位が異なることが大きな違いです。近年は石油の代替品として一層触れる機会が増えましたが、これらも日本人にとって身近な森林由来の原料から作られています。

暮らしに欠かせない必需品【燃料】

森林資源は【燃料】としての利用も欠かせません。暮らしの中で使用される焚き付けや薪のほか、製鉄や製塩でも多くの燃料が必要とされました。製塩では、塩の制作過程で海水などを煮詰める際、大量の木材が必要になるからです。奈良時代には、東大寺が荘園として約500haの塩山(燃料として利用する森林)を保有していたとされています。

さらに中国山地では、製鉄のため燃料として非常に多くの伐採が行われたそうです。スタジオジブリの「もののけ姫」でも、たたら製鉄の様子が描かれていますが、製鉄と森林との関わりを意識しながら映画を見てみると面白いかもしれません。

樹との相性が大切な旬の食材【キノコ】

森林資源の食べ物といえば、山菜やタケノコ・ワサビなどがありますが、【キノコ】の存在も忘れてはいけません。

マツタケやホンシメジのように土の中で生きた植物と共生関係を築いて生活する菌根菌。しいたけやナメコなど落ち葉や倒木、切り株などを栄養分として分解しながら生育する腐朽菌。ほかにも動物の糞や遺骸などを利用するキノコもありますが、食用として利用するキノコの多くが樹との関係性によって成り立っています。それも、自然界では特定の樹との間でしか発生しないのが、キノコの面白くも難しいところ。原木栽培ではもちろんですが、菌床栽培のキノコでもベースになる材料に木質のオガクズが必要なのです。

樹液が塗料に?【漆】(ウルシ)

【漆】は漆器などで古くから利用されてきました。しかし、漆の利用としては縄文時代から装飾や接着に利用されていたとのことです。では、この漆の正体をご存知でしょうか? 実はウルシの木から採取した樹液なのです。貝殻をはめ込んだ螺鈿や伝統工芸品のほか、カトラリーや印伝の模様を施す場合にも使われます。

元は100%天然由来の優れもの【和ろうそく】

アウトドア・イベント・誕生日ケーキ・仏壇や神棚など日常でも使用されているロウソク。現在流通している安価なロウソクの多くが西洋ロウソクで、パラフィンが原料です。一方で、西洋ロウソクが一般化する前に日本で流通していたのは【和ろうそく】と呼ばれ、こちらは蝋(ろう)の主原料がウルシの仲間のハゼノキの実を圧搾したものでした。芯の部分も和紙+イグサの芯+綿を使用して作られています。和ろうそくは風が吹いても消えにくく、ススが出ないので仏壇などを汚さないといった多くのメリットがあります。

日本の森の恵みを活かすのは「あなたの選択肢」次第

日本は森林が豊かだからこそ、今でも当たり前のように衣食住で森林や自然の恵みに触れています。しかし、その暮らしを支えている資源や製造の現場は、海外製品の流入や石油由来の代替商品によって需要の減少・継業の問題で持続が難しいという問題も抱えています。

果たして皆さんの手元で使用しているモノはどこから来たのでしょうか? 以前のコラムでは、木材は他国に依存せずに利用できる数少ない資源とは書きましたが、原産地を調べると膨大な燃料を使用して海外から大量に輸入されたもの、ということもしばしばです。近いようで遠い存在になっている森の恵みを、自分の触れる範囲だけでも見直してみませんか。

日本の森林を健全な形で維持していくために必要なのは、消費者の皆さんの選択なのかもしれません。

      

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