高知県と東京都を拠点に、自然と調和した新しいライフスタイルの提案や環境に配慮した作品づくりをしているアトリエ「土佐草木花」。
廃棄されるはずの「かんな屑」をアップサイクルしてつくられた「かなばフラワー」は、WOODコレクション(モクコレ)のオープニングセレモニーで胸章として付けられたり、Tokyo ALL JAPAN COLLECTIONに展示されたりなど、大きな反響を呼んでいます。
本物の花と見間違えるほど美しい「かなばフラワー」ですが、どのような想いで生み出されたのでしょうか? 土佐草木花の代表・辻ゆかさんに伺いました。
辻ゆか プロフィール 2016.10.1 土佐草木花設立 東京にて草木事業開始 |
かんな屑をアップサイクルして生み出された「かなばフラワー」
土佐草木花はもともと、高知県に咲いている草花や木を活かした飾り付けの仕事をしていました。しかし、東京で働きつつも、故郷である高知の素材を使って、なにか新しいものをつくりたいという想いはあったんですね。
最初は地元高知の特産品である「土佐和紙」や布などを使って、コサージュのようなものをつくっていたのですが、半年間の試行錯誤の末、かんな屑を利用することを思いつきました。
高知では木材を削るときに出るかんな屑のことを「かなば」と呼んでいて、私はこの「かなば」という言葉の響きが大好きなんですよ。
あまり知られていないかもしれませんが、高知県は全国1位の森林率となっていて、昔から林業や木工業が盛んに行われています。
良質な木材を加工するときに出る「かなば」は、薄くて、それでいて色味もとてもきれいなんですね。なのに、再利用されることはなく、ただただ廃棄されるという状況でした。
それでは、もったいない、この「かなば」を活用してコサージュがつくれたら、きれいで目立って面白いのでは? と考えてできたのが「かなばフラワー」です。
試しにヒノキの「かなば」でつくってみたところ、白色が美しいフォーマルな花に仕上がりまして、セレモニーや晴れ舞台に向いていると感じたんですね。 地元の学校関係者の方にお見せしたところ、ありがたいことに大変好評で、卒業式などで付けられる胸章にしていただきました。
ひとつとして同じものはない 「かなばフラワー」の魅力
かなばフラワーはヒノキとスギをメインに、あとはときどき手に入るケヤキなどを組み合わせてつくります。「かなば」は高知の木工所や建具屋から出るものを使っていて、ひとつひとつ長さも厚さも違うんですね。
それぞれの樹種の「かなば」にも特徴があって、ヒノキなら白くてフォーマルな色合い、スギなら茶色がきれいで木目がはっきりしている、ケヤキは黄色っぽくて色味のアクセントになるんですよ。
それらを組み合わせつつ、さまざまな色と柄がある土佐和紙を貼り合わせてつくるので、ひとつとして同じものはありません。和紙も植物からつくられているので「かなば」との相性も良く、作品に広がりが生まれました。
イベントなどで「かなばフラワー」を展示していただくことも増え、実物を鑑賞された方からは、木でつくっていることや和紙を貼って色付けしていることに驚いた、などの声をいただいています。「かなばフラワー」を見て喜んでいただけている様子を見ると、こちらまで嬉しくなってしまいますね。
今では土佐草木花のサイトから、フラワーボックスやブーケなどのオーダーメイドも受け付けています。「かなば」でつくった花には、美しさの期限というものがおそらくないんですよ。
生花と違って、永遠に咲き続けると言いますか、最初期の2017年につくったものも美しさを維持しています。そのためか、誕生日や結婚のプレゼントとして注文される方が多いんですね。
年月の経過で「かなば」の木目の色が濃くなってくることもありますが、それも味として楽しめるのも魅力です。
デパートなどからのご依頼で、ミニブーケやバトンフラワーなどをつくるワークショップを開催することもあります。自分オリジナルの作品をつくり、持ち帰ることもできるので、近隣で開催されることがありましたら、ぜひ足を運んでみてください。
「かなば」の作品を飾る際の注意点としては、木でつくっているので、火気厳禁だということ。日常的な湿気ならとくに影響はありませんので、お好きな場所に置いて楽しめます。
「かなば」と木育への想いから生まれた地元の“輪”
土佐草木花では「こうち木育ねっと。」という活動もしていて、地元の木材や「かなば」を使って、親子一緒に時計づくりやフラワーアレンジメントなどをするワークショップも開催しています。
木育と聞くと、子どもの教育と思われるかもしれませんが、私たちは「大人の木育」をテーマに掲げているんですね。気軽に始められる木育として、普段の生活に少しでも“木”を取り入れてみては? と提案しているわけです。
大人が木育に興味を持って、木の文化や大切さを知れば、お子様も自然と“木”に興味を持つはずです。
「かなばフラワー」にも木を大切にしたい、という想いが込められていて、私たちが使っている「かなば」は、作品をつくるために削っているわけではなく、100%廃棄されるものをアップサイクルしています。
地元の木工所や建具屋の方も、こんなにきれいな「かなば」をただ捨てるのはもったいないと思っていて、「きれいな花に生まれ変わるならどうぞ使ってください」と快く提供していただきました。
これから「かなばフラワーが」日本の木材利用やアップサイクルを牽引していくための象徴となれば、こんなに嬉しいことはないですね。
高知で「かなば」や木育への想いから生まれた地元の“共感の輪”は、さまざまな広がりを見せています。木工所で捨てられるはずだった「かなば」は、私たちにとって大切なものとなり、花に生まれ変わっては地元のセレモニーなどで人々に笑顔を咲かせます。大規模なセレモニーが開かれる度、花をつくるために障がいを持った方々の雇用が生まれ、そうしてつくられた花々は、手にした人々に木育の種を蒔くことでしょう。
地元高知でできたこの“共感の輪”、ぜひ日本全国に広げていきたいですね。