「Sustainable Forest」をミッションに掲げ、木材プラットフォーム「eTREE」の提供をする株式会社森未来。“木”を通して豊かな未来をつくろうとするキイノクスとも今後さまざまな協業が期待されます。今回は代表取締役の浅野純平さんに、林業についての課題や持続可能な産業にするために取り組まれていることをお聞きしました。
浅野純平 プロフィール 1981年千葉県生まれ。 IT業界から林業で起業するために転身。東京都秋川木材協同組合で事務局長を務めた後、2016年に株式会社森未来を設立。設計士・デザイナー向け木材情報プラットフォーム「eTREE」を提供している。 |
持続可能な森林をつくり、次の世代に繋いでいきたい
――森未来の目指していることを教えてください。
当社は「Sustainable Forest」をミッションに掲げ、林業や木材業界に関わる課題をITの力を活用して解決し、持続可能な森林をつくり、次の世代に繋げていくことを目指すスタートアップ企業です。
近年、業界を問わずトレーサビリティやサプライチェーンに対する要求が非常に高くなってきていると実感しています。そんな中、日本の木材流通は需要と供給間の情報連携やコスト面で課題を抱えています。例えば 、設計者が木材業者と取引する場合、木材をどこから調達し、加工、塗装し、どのように運搬するかの調整や価格交渉が難しく、さらに木材の産地や生物多様性に配慮した森林管理がされているか 、違法に伐採されていないかなどが証明できていないといった課題があります。
そうした課題に着目し、木材に関わる情報を活用して最適なサプライチェーンを提案するなど、トレーサビリティのとれた木材を普及させることに注力しているところです。
2016年に東京オリンピック2020への機運の高まりもあって、例えば住友林業が木材で超高層ビル建築を行う「W350プロジェクト」が立ち上げられたり、植物由来の素材として「セルロースナノファイバー」といった新素材が生まれたりと森林や木材への注目度が高まりました。SDGsが注目されるようになったのもこの頃と記憶しています。より環境に配慮された社会になっていく、そんな動きがありました。しかし、同時期に創業して約8 年が経ちますが、率直にまだまだ日本は遅れていると感じています。
日本では約50年前に拡大造林をしたからこそ、いま私たちは木を使うことができます。しかし、地域により差はありますが、国が発表する全国の再造林率は30%程度。未来に向けての植林・育林に資金をあてることができていないのが現状です。 森林に収益が還元されるビジネスとして、森林を残していく仕組みをつくることが必要です。
木材情報を集約し、最適なサプライチェーンを提供する
――木材プラットフォーム「eTREE」誕生の経緯やサービス内容を教えてください。
国産材から外材まで100種類以上の取り扱いができることから、2018年にBtoCの木材プラットフォームとして「eTREE」をスタートさせました。サービス開始当初は、ユーザーが材の産地をはじめフローリング材の厚みといったような細かな要件で検索できるようにしていました。しかし、一般の購入者では加工ができないハードルもあり、林業の事業者とユーザーをマッチングする機能提供だけではサービスの拡大につながっていきませんでした。
そこで、設計者との商談の際に「サンプルが欲しい」と言われる点に着目し、BtoBで木材のサンプルを無料で送るサービスを始めました。次第にオーダーがくるようになり、商談、受注というフローができあがりました。その中で再認識したのは木材コーディネートの必要性です。サンプルを送るサービスでは情報のみの提供だったので、価格や規格も含めた詳細な情報をデジタルデータ化したBtoB向けプラットフォームとして、2021年に「eTREE」を新たにリリースしました。
現在は、調達から加工まで一貫してサポートする「木材調達・加工」、木材のプロがプロジェクトに沿った提案や支援を行う「木材利用のサポート」、地域材や製材所、補助金、森林と木材に関するイベントを検索できるポータルなどの「Webサービス」、その他法人向けに「森林認証取得に向けたコンサルティング」を行っています。当社に所属する4名の木材コーディネーターが自社データベースをバックデータとして提案するスタイルにして、主にオフィスや商業施設などを手がけている内装デザイナーさんなど、内装関連の会社様に多く利用してもらっています。
森林に利益が還元される木材利用の提案
――どんな世の中をつくれたら、未来につながると考えていますか?
日本の企業はESG文脈、つまり企業の社会貢献として木材利用に取り組む事例が多いと思います。私は林業を持続可能なものにするためには、「なぜその木材を使用するのか?」「環境に良い木材を使おう」と考えるのが当たり前になる世の中をつくることが必要だと感じています。
2023年に森林破壊や劣化を防ぐ新たな決まりとして、「EUDR(欧州森林破壊防止規則)」が発効されましたが、欧州では森林に関する法整備が進んでいます。これは森林が農地に転用され森林破壊が起こったことが背景にあります。森林破壊によって人々の暮らしも脅かされるという危機感が、環境に配慮した生活を浸透させたのではないでしょうか。
例えば、グローバルアパレルメーカーの店舗開発では「森林認証の木材を必ず使用してください」といったオーダーが当たり前に行われます。欧州では「木材を使うことに意味がある」という考え方が醸成されているので、素材利用について企業PRや広報活動などで対外的なアピールはしないんです。その考え方が日本との大きな違いであると考えています。
日本の林業での大きなトピックのひとつに、2025年に法改正が行われる「クリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)」があります。日本では2017年にはじめて制定された法律ですが、欧州では違法伐採に対する取り締まりが強化されてきたのに対し、日本ではあくまでも努力義務であり、この法に基づく登録事業者になっても違法木材を取り扱うことができるし、罰則規定も設けられていませんでした。しかし、2025年の法改正によって、輸入材についてより厳格化されるほか、木材の輸入・製材に関連する事業者に、証明書の取得や原産国の法令に従って伐採されたかの確認が義務付けられるようになります。
トレーサビリティを必要とする動きの加速は、林業を持続可能にするためにも期待している点です。当社では森林認証の取得からその後の運用までサポートするコンサルティングサービスも行っています。認証は次の世代に森林資源を残していこうとするスタンスが前提にあって、その証明として価値のあるもの。その考えが浸透して認証取得が拡がっていったら嬉しいです。
企業からムーブメントを起こしたい
――持続可能な森林のある社会を目指すために大切なことは何でしょうか?
大事なのは、企業が主導することだと思っています。近年は特に日本の大手デベロッパーなどで意識の高まりを感じます。環境に配慮された木材を使おうとする人が少しでも増えれば、ソリューションを提供する必要が出てきますし、認証取得の動きや木材提供のプレイヤーも増えていきます。ビジネスの「鶏が先か、卵が先か」という状態を誰かがつくらないといけない。それを最初に行動していくのが私たちでありたいと思っています。
自らサステナブルな商品やサービスをつくり、大企業もそれに追随するような流れがつくれたら、次第に一般消費者に注目されていくはずです。BIPROGYグループやキイノクス プロジェクトとも、環境に配慮された木材を活用したプロダクトの製造や内装設計施工などにおいて協業を加速させたいですね。ムーブメントを起こすことが大事だと思うので、1社で行うよりも一緒に啓蒙活動をしていけたら嬉しいです。
大企業から徐々にムーブメントを起こし、消費者の意識も変化していく。そうすれば法律などの整備もよりよい形で進んでいくのではないかと思っています。「この木材は本当に違法伐採していないものですか?」といったやりとりが当たり前に行われる世の中にするのが理想です(笑)。
新しい木材流通のカタチをつくる
――今後の展望を教えてください。
これまで、当社の保有する木材データは商品情報・価格・規格・物流が中心でしたが、今後は「産地情報」も付加していきたいと考えています。そのために産地の証明をどのようにしていくのか、その追求をしていきたいです。
また、今後は脱炭素へ向けて日本でもエンボディドカーボン(建物の建設に際して発生するCO2)の算定義務化もされるようになっていくと思うので、CO2排出量の適切な計算が行える仕組みを整えたいですね。木材の場合、伐採や製材した場所、製材方法、木材乾燥に使用したエネルギー(重油やバイオマス等)などさまざまな条件によって、環境負荷が異なります。現状、日本では統計から算出するため、詳細な計測値になっていないんです。具体的な算定ができるようにして、企業に提供していきたいと思っています。
当社はサステナブルな木材の普及・推進に注力し、まだ誰もやっていないことに挑戦し、持続可能なサプライチェーンをつくっていきます。20年、30年と長期スパンで考えなければならないところもありますが、当社の取り組みに共感し、時間をかけて一緒に取り組もうと思ってもらえるようになっていきたいですね。