インタビュー

2023.06.21奥会津経木製作所に聞く 「経木」が描く未来の可能性

こんにちは! もりのきのこです。

突然ですが、みなさん「経木(きょうぎ)」ってご存じですか? マツやスギなどの木を、紙のように薄く削ったものです。経木という名称になじみがなくても、一度は手にしたことがあるかもしれません。

約1500年前、日本で紙が貴重だった時代は、薄く加工した木に文字やお経を書いていました。“経木”という名称は、“お経を書く木”から由来しています。現在では目にする機会が少なくなった経木ですが、福島県只見町にある精密機器組立会社が新たに製造を始めたそうです。

なぜ経木に注目し、製造するに至ったのか、そして経木の魅力とは? 有限会社セイワ電子代表の目黒道人さんに伺いました。

 

目黒道人 プロフィール
有限会社セイワ電子代表取締役・合同会社メーデルリーフ社員
福島県只見町生まれ。光学機器関連、自動車関連部品の組立工場を経営する傍らご当地グルメ「味付マトンケバブ」を開発。JR只見駅前で味付マトンケバブカフェを運営。2019年に斜陽産業である経木業界に可能性を感じ2020年に新規参入。紆余曲折を経て経木の製造に漕ぎ着け、2022年に経木の製造販売を行う奥会津経木製作所を立ち上げ現在に至る。好事家。

 

電子組立工場経営者と経木 偶然の出会いから経木製造機械を譲り受ける

私と経木との出会いは4年前。知り合いから「山や川に捨てられてしまうプラスチックごみを減らすため、経木を活用してはどうか?」というアイディアをいただき、存在を知りました。

興味が湧いて調べてみると、

経木は日本古来の素材であるけれど、プラスチックの登場により製造が激減。現在では、業界全体で製造工場が十数軒しかないとわかりました。なかには80~90代の職人さんがひとりで作っている工場もあり、まさに風前の灯という状態です。 経木はこれからの社会にこそ必要となる素材なのに、このままでは存続が危ういと思っていたところ、SNSを通じて経木製造を営む方と知り合いました。すぐに工場見学したいと連絡したのですが、すでに経木の製造業は終了したとのこと。

がっかりしていると、「良かったら経木を作る機械を引き取ってくれませんか?」と、思いもよらないご提案をいただき、機械を譲り受け、2020年2月から経木製造に取り掛かりました。  

経木への情熱に支えられながら挑み続けた3年間

機械を譲り受けてみたものの、組み立てて使えるようになるまで1年かかりました。それからは試行錯誤の日々。理想の経木が製造できるまでにはさらに2年を費やしました。

そして、2023年1月にようやく0.18mm、だいたいコピー用紙くらいの薄さの経木を安定して製造できるようになったわけです。

ここに至るまで、何度も挫折しそうになりました。私の工場は電子機器組立が専門なので、材木加工は人生初。失敗続きで気が滅入ったときもあります。そんなときは材木屋さんや林業家、経木工場の先輩たちにいろんなお話を伺いました。

自分が経木を作ろうとしていることを伝えると、みんな興味をもって聞いてくれる。なかには「機械を見に行きたい」と言ってくれる方も。多くの方とお話をしていくなかで、経木への関心の高さが実感でき、自分は間違ったことをしていないんだという自信が持てました。

私の取り組みを褒めてくれる肯定的な方が多く、この出会いが経木作りを諦めないで続けようという意思を後押ししてくれました。

工場の従業員たちには、「経木はこれから必要とされる素材だから、世の中でどんどん使われていくことを目指そう」と説明すると、みんな納得してくれました。

経木製造に挑み始めた時期がコロナ禍で、工場が完全にストップしていたこともあり、時間があったのも大きいですね。あと、工場とは別に只見駅前でマトンケバブカフェを経営しており、こちらも全くの畑違いな事業をやっているわけでして、従業員の皆さんは「また社長がなにか変なこと始めた」と思っていたのかも知れません(笑)。  

おにぎりを包めばよりおいしく 経木ならではの魅力とは?

現在、私たちが製造している経木の原材料には、アカマツを使用しています。アカマツなどの針葉樹は抗菌作用に優れているのが特長です。調湿作用もあるので、肉や魚のドリップを吸ってくれます。

経木の使い方としては、おにぎりを包むのもオススメです。ホカホカのおにぎりを経木で包むと蒸気を吸収し、時間が経ってもふっくらおいしく食べられるんです。食品用ラップフィルムやビニールにはない魅力だと思います。隣町のお弁当屋さんでは、ごはんとおかずの上にのせる抗菌シートとしてご利用いただいてます。  

 

ほかにも、和船を模した「経木舟」という試作品もあります。コロナ禍によって舟盛りが出るような大宴会は無くなってしまいました。せめて気分だけでも盛り上げたいとき、1人前のお刺身を盛り付ければ舟盛り気分を味わえます。「一人前でも舟盛り気分!」のコピーと共に居酒屋などへ提案したいと考えています。

経木の容器は、洗わずに捨てられますし、なにより燃やしても有害物質が出ない点が優れています。燃やしたときにCO2は排出されるものの、次のアカマツが育つのに役立つので、環境資源の循環になるのです。

   

また、経木の製造中に出る細かな端材を梱包材代わりにできるとも考えています。箱を開けた瞬間に木の香りがするので、贈り物用の梱包材としても重宝されるのではないかと思います。経木を活かすアイディアは使う人の数ほどたくさんあると思うので、様々な用途で商品化していけることを今から楽しみにしています。  

SDGsを意識した経木の使い方 選ぶ責任と価値

SDGs17の目標「12.つくる責任 つかう責任」は、持続可能な消費と生産を構築するための目標です。生産者も消費者も、地球の環境と人々の健康を守れるよう、 責任ある行動をとるというもの。この考えは、これまでの消費社会とはまったく別なので、これからの生きていく姿勢が問われると考えています。

確かにプラスチックは安くて性能も良く、利点は多い。でも、環境的な危機感を持たないまま半世紀もの間プラスチックを使い続けた結果、ついに後戻りできないところまできてしまいました。「じゃあプラスチック以外で何を使えばいいの?」というときこそ、経木の存在を思い出して使っていただきたいです。

しかし、経木がいくら環境に良いといっても、実際にはプラスチック製品からすぐに乗り換えるのは難しいですよね。まずは、経木を生活に取り入れることで暮らしが豊かになる、洗練される、という経木が持つ価値について、みなさんに知っていただくことが必要だと考えています。

たとえば天ぷらの下に経木を敷けば油を吸ってくれるし、そのぶんお皿を洗う水も少なくできる。そのうえ見た目にも高級感が出ます。ほかにも、スーパーでたまに経木に包まれている納豆を見かけます。普段購入するものより100円くらい高いですが、ちょっとした贅沢として手が届く値段です。こんなふうに、経木を高い付加価値を演出するアイテムとして、ちょっとずつ生活に入り込んでいけたら、みなさんが手に取りやすくなるのではと思います。

演出としての用途への期待もありますが、私は経木を、かつての暮らしのように、“普通の生活の中にある”状態に戻したいと思っています。アルミホイルや食品包装用ラップの売り場に経木が並んで売られている、そんな未来を想像しています。  

経木を継承する使命

前途しましたが経木工場は全国で十数軒ほどしかなく、私たちの会社はおそらく60年ぶりの新規参入と言えるのではないでしょうか。去年も私が知る限りで2軒が廃業してしまい、他の老舗工場の生産を圧迫しています。 私たちも微力ながらお手伝いできればと思っています。

経木の需要は一定程度あります。でも、生産が間に合わないし、経木の機械を製造する会社がないので、工場が増えないというのが現状です。

私たちも廃業した会社から譲り受けた機械を大事に使いながら、経木を製造しています。譲っていただいた機械は3台あって、2台が稼働中。残り1台を基に複製品ができないかと目論んでいます。経木機械の製造ができるようになれば、新規工場が誕生するかもしれません。10年以内に経木の機械を販売することも目標にしています。

いま全国的に松がれ被害が問題になっています。ライフスタイルが変わり森林が活用されなくなってしまったのがその原因なのですが、アカマツを活用することで松がれ被害を小さく抑えることができるかも知れません。いまは同業者と話し合いながら、もっと多くの方に経木の魅力を伝えられるよう力を注いでいます。経木を知っていただき、買っていただく。そんな市場を作ることが私たちの使命だと心に刻み、活動を続けています。  

目黒さんからお話をお聞きして、経木が秘める可能性やや暮らしの豊かさにとても興味を惹かれました。いつの日か、目黒さんの工場にも実際にお伺いしてみたいです! 私も経木を日常にとりいれて、暮らしが豊かになる感覚を味わいたいと思います。

 

      

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