インタビュー

2023.02.21間伐材や支障木をアップサイクル “木の宝石"を生み出す「立木染」とは?

和歌山県、熊野の山にある「立木染(たちきぞめ)」の工房。そこには宝石と見紛うようなウッドアクセサリーが並んでいます。

有効利用されることなく、捨てられるだけの存在だった「間伐材」や「支障木」を染め上げ、神秘的な作品へとアップサイクルする「立木染」。そんな唯一無二の技術を継承した吉水栄樹さんに、立木染の成り立ちや作品づくりのこだわりについて伺いました。  

吉水栄樹 プロフィール
大学卒業後、家業で林業を営んでいたこともあり、外材の流通状況を知っておいた方が役立つと考え、外材製材工場に勤務。プレカット事業部の立ち上げ後は営業、仕入を担当。その後、家業の林業を引き継ぐために、植林から伐採、搬出までの作業を習得した。現在は林業経営と立木染に従事。国産材を扱うにあたり、製材工場やプレカット工場で得た知識が立木染材の加工に活かされている。

 

使われない木材が色彩豊かな作品に 「立木染」が誕生した経緯

立木染は30年ほど前に私の父が始めました。使用するのは森林の成長のために間引かれる間伐材や、林道などの通行の妨げになる支障木です。

これらの木は、昔はかまどやお風呂の燃料、建築用の足場などに使われていたのですが、時代が進むにつれて、切るだけ切って使われない状況になってしまったんですね。

そうした状況を父は憂い、「捨てられてしまう木も何かに使えないか」と考えて、試行錯誤の末にたどり着いたのが立木染でした。

始めた当初から私も手伝っていましたが、本格的に受け継いだのは父が亡くなってからで、もう16年ほどになります。

木を染める方法は父が確立させていたものの、染めた木の使い方や作品の取り扱いなど、継いでから4、5年は研鑽の日々が続きました。    

父のころは立木染に雑木類を使っていたのですが、私はスギやヒノキの間伐材を主に使っています。

間伐する必要がある木を見付けたら、半年ほどかけて染料を吸い上げさせ、染まったら伐採して工房に運送。工房ではまず板状に切って、さらにいろいろな形に切り出します。

その後は一旦乾燥させてから、研磨・艶出しして仕上げに入る、という工程です。ひとつひとつ手作業で、染める段階から完成まではおよそ8〜9ヶ月を要するため、大量生産はできません。  

 

「もっと工程を簡素化してはどうか?」と言われることもありますが、そうすると今の質は保てない。やはり自分が納得できる仕上がりのものをつくりたいので、質は下げたくないですね。

父のころに比べると、試行錯誤を経て加工の技術もかなり上がったので、今後はさらに良いものを作っていきたいと思っています。  

木と自然が生み出す“世界にひとつしかない” 手づくりウッドアクサリー

作品づくりにおいて重要なのは“素材のどの部分を切り出すか”ということです。染まり方は木によっても状況によっても大きく異なるため、パターン化はできません。

木目や色彩が美しく見えるように切り出すためには審美眼を鍛える必要もあります。さすがに美大に通うわけにもいかなかったので、感覚を磨くために美術品の鑑賞などに励みました。

制作のなかで好きな工程は、染めた木を板状に切り出すときですね。

木の幹は細胞が縦横につながっているため、染料が染み込むところ、染み込まないところ、さらに染み込んでから色が混ざるところなど、いろいろな模様が生まれるんですよ。それを見るときが一番楽しい瞬間だと感じます。    

とくにイメージしていた以上の色合いや模様が出ると、とてもうれしくなりますね。

ただ、板状にしたときにあまりにも美しいと、そこからアクセサリーの形に切り出すときに非常に悩むことも……。迷いすぎて、10年ほど寝かせている板もあるんですよ(笑)。    

現在制作しているものはペンダントトップ、ブローチ、バレッタなどのウッドアクセサリーが中心です。お客様には女性の方が多く、一番人気なのはペンダントトップですね。とは言え、男性の方もいらっしゃるので、最近はボールペンもつくるようになりました。

立木染の商品を手に取ったとき、その軽さに驚かれる方がとても多いですね。とくにデパートで販売したときには、木だと知らない方が「何の石ですか?」とびっくりされていたこともありました。

木製のアクセサリーは石や金属に比べて軽いので、身に付けていて疲れにくいところも魅力だと思います。    

父の代から来てくださっているお客様には、出張の多いビジネスマンの方や大学の先生がいらっしゃいます。この方々が、海外出張に行かれるときの手土産に立木染のアイテムを買ってくださるんです。海外の方にも喜ばれるようで、私もうれしく思いますね。

国際放送された日本のテレビ番組を見たニュージーランドのジュエリーデザイナーの方から「ぜひ見に行きたい」と問い合わせがあって、実際にお越しいただいたこともあります。

コロナウイルスが流行する前は、毎週のように海外からのお客様が来られる時期もありましたね。国境を越えて立木染に興味を持っていただけるのは、とてもありがたいことです。  

子どものころから傍にある木への想いと“健全な森”への願い

自然は私にとって子どものころから傍にあるもので、なかでも木に対する想いは強いです。木は同じ種類でもひとつひとつ性格やクセが違うので、人との対話と同じように、それぞれの個性を尊重して木と接するようにしていますね。

山に入るときには心の中であいさつしたり、伐採するときにはいつも「ごめんね」と伝えたり、そんなふうに木と触れ合っています。

だからこそ、使われない木を朽ちさせたくない、適材適所で輝かせたい。私のエゴかもしれませんが、そのような想いがあるからこそ立木染を続けられるんだと思います。  

 

日本には多くの山や森林がありますが、これらの木の多くは戦後に植林されたものです。

人の手で植えられた木が50年から60年ほどかけて成長し、伐採され、また木が植えられて育つ……それが人間の関わる森林のサイクルだと考えています。そして森林を育てるためには、間伐がおこなわれ、しっかりと管理されている必要があるわけです。

しかし、手入れの行き届いていない山も日本にはたくさんあるんですね。

放ったらかしの山で間伐されずに木が育つと、葉が茂って太陽の光が地面に届かず、土地はやせていきますし、木々もしっかりと根を張ることができません。

一方で、間伐がおこなわれている山では木もしっかりと根を張って真っ直ぐ伸び、水害による土砂崩れも起きにくくなります。木以外の植物も豊かに育ち、動物も食べ物に事欠かないので人里での獣害も減るはずです。

山のためにも人のためにも、森林の管理と保全はとても大切なこと。木に関わるひとりの人間として、日本中の森林が“健全な森”であってほしいと願わずにはいられません。  

立木染のこれから

立木染はかかる時間や手間を減らして大量生産することができないので、ビジネスの拡大は難しいんですね。しかしながら、父から受け継いだ信念と技術を絶やしたくないですし、何より自分自身の木への想いがあるので、この先も続けていきたいです。

受け継いでから16年になりますが、今はもっと良いものをつくりたい、という気持ちがとくに強いんですよ。これから新たにつくってみたいのはオブジェ。

アクセサリーとはまた違った試行錯誤があると思いますが、いろいろと挑戦していきたいです。そして、立木染がひとりでも多くの“木が好きな人”に届いてほしいと思っています。

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